がその男を発見したときには、既に酷い有り様だった。 衣類は埃塗れで所々裂け、顔には殴打の痣が幾つも青紫に変色している。恐らく上着を捲れば大きく同じものがあるだろう。 痩せ細った体、髪は伸び放題、どこを見ているのかわからない虚ろ眼に、腫れた口唇から一本の血が顎に向かって伸びていた。 意図的ではないだろうが、男は無造作にダンボールに納まっている。長い足や腕は飛び出、そのうちの一つ、片方の指がありえない方向に曲がっていた。折れているのだ。 肌寒い今宵に、冷気を孕んだ風が通り過ぎた。路地裏にいる二人の髪を靡かせ、は髪を押さえる。 「なんでここにいるの」 突き放すような言い方だった。見下し、「ねえ」と答えを急かしながら男が納まっているダンボールを軽く蹴る。鈍い音がした。男は揺れたが男自身は何も喋らなかった。もう一度、が男の顎を捕まえて問う。「聞いてる」 男は、ニィと不気味な笑いをし、次に口を開けたと思えば訳のわからないことを口走ってきた。あうあう、と。これならば子供の方がましだ。 ピン、とが何か気がついたかのように目を見開く。顎をつかんでいた手を震わせ、薄汚れた頬を指で拭った。男は、どこか嬉しそうにもう一度何か発している。 「……バカね、バカだよ」 泣きそうな声で言うと、は男の腕を取って自分の肩に乗せた。なんとか立たせようと踏ん張るが、ぺたりと男は座ってしまう。なぜ、とが疑問を抱えていると、ふと腫れ上がった足首が見えた。捻挫か、もしくは骨を折っているのかもしれない。 は意を決して、男を自分の背に乗せた。男にしては軽すぎるグラムが、それほどまでに痩せていることを証明していた。 自分のボロアパートに連れ込むと、まずがしたことは医師を呼ぶことだった。電話で連絡し、医師が来るまで暖炉の前にある椅子に男を座らせて服を脱がす。――案の定、体全域には無数の痣が出来ていた。 明かりを点けていないからか、紫色が黒く見える。否、黒かったのかもしれない。 痛々しい体に目を伏せ、温かなタオルで男の体を拭いていく。十分もしない間に終えると、タイミングよくドアをノックする音がした。は、男をシーツで包めると、返事をしながらドアを開ける。先ほど呼んだ医師だ。医師、といっても闇医者だが。 闇の世界に入ってしまえば、もう足を洗うことなど出来いことは承知の上だった。例え出来たとしても、一生、奪った命の死を背負いながら生きなければならない。には、そんな勇気も抱える余裕も無かった。 いつの日か幸せを感じたとき、闇に生きた記憶が掘り起こされるであろう。人は、独りで生きていくことなど出来ない。それほど強くはない。異性でも同姓でも、誰か寄り添う相手がいるのなら、まだ乗り越えられるかもしれない。 若し頃、淡い恋愛ごっこの中に共にいたいと願った男がひとりだけいたが、それが叶うことなくこうしては闇で生きている。ここにいることが苦痛ではないことが幸いか、一人で生きてる。だが、決して独りではない。 瞼を閉じれば、傷痕が生む疼きと生まれてくる残像がいる。残像を追い求めることが情けないと感じたりもするが、今のを救っていることは確かだった。 「状態は」 「指が折れてる。足は、さっき確認したけど痛いも何も言わないからわかんない」 顔見知りの闇医者に説明すると中に入るよう促し、男を指す。目線を上げ、男の傍まで歩くと闇医者はトランクを置いた。彼が顔を上げると、無表情だった表情を強張らせる。 すると、その様子を見透かしたようにの冷たい手が首にかかった。殺気を持つ沈黙で、ばらしたら殺すと伝えているかのようだった。 の手が引くと、生唾を飲み込んだ闇医者が男の診察に取り掛かる。手足を診、ついでに肋骨も折れていないか確認し、あとはさらりと目を通すだけで念入りに診たりはしない。何せ、闇医者だ。銃で撃たれているのならまだしも、骨が折れているだけで慌てはしないのだ。殺し屋専門の医者は、大抵、体に穴を開けた患者を診ることが多い。 トランクを開けると、早速手当てに入る。その様子を、は後ろからじっと見詰めていた。 ――一時間もしないうちに手荒い治療が終わった。足は、ただの捻挫で、手の指は折れている。体中の痣は後に消えるだろう、といった初めからわかりきっていたことが、ほぼそのまま伝えられた。 は、これからの軽い処置法を聞いて最後に倍の金を渡す。これを言うなといった、二度目の警告だった。 ドアを閉め鍵をし、包帯だらけの男に近寄る。男は、目の前にある揺らめいた炎を無表情のまま見つめていた。 は、眉間に皺を作り、近くにあった洗面器を片そうと手を伸ばした。先ほど男を拭くときに使った湯だ。 水面に歪んだ自分の顔が映し出されていた。底に行くほど真っ黒に澱んだ黒い水は、まるでの気持ちを代弁しているかのようだった。 明くる朝、薄いカーテンから透けた光では目覚めた。のろのろと上半身を起き上がらせ、軋む体に疑問を持つ。そうか、と答えはすぐに見つけた。昨日、男をベッドに眠らせ、自分は固いソファへと寝たのだと。 頭を掻きながら、いるだろうベッドに目を向ける。だが、男の姿はなかった。驚いて立ち上がり、周りを見渡すと途端にキッチンから何か大きな音が鳴り響く。目覚めたばかりの脳に、それは良いものではない。は嫌な予感をしつつも、キッチンへと足を向けた。 元からあまり調理器具や材料などなかったが、それでも散らかっているのは間違いない。小麦粉は袋から飛び出、ご丁寧に砂糖と塩が向き合い混ざり合っている。鍋やフライパンもありえない場所にあり、さきほど大きな音を立てた物は、きっと床に転がっているジャムの入った壜だ。幸いにも、きっちりと蓋がしてある壜からは中身が漏れていない。 は、キッチンの隅に座っている男を睨み付けた。きょとんとした男の顔がある。 「なにやってんの。ちゃんと寝てないとだめでしょ」 「お腹が空いたんだ。これ、取れない」 蓋を回すこともわからないのか、男は転がっている壜を手で叩いたり床に押し付けたりしている。 「これは回すの。こうやって…ほら」 「なるほど。すごいな」 が蓋を取ると、男は手を叩いて喜んでいた。そして、次々に「これは?これは?」と聞いてくる。初めは、一つ一つ教えていただったが、あまりにもうざかったのだろう。 「あーもー! 病人は大人しく寝てろっての!」 がつん、と拳で殴った。 「痛い……」 そうして黙らせ、ベッドに向かわせる。病人を殴るなど、かなり矛盾な行為だ。 中途半端な時間に朝食をとる。フランスパンにバターを塗っただけのものに一杯のミルク。それからウインナーが三本。かなり粗末だが、男は喜んで食べている。 喜んでもらえたのは結構だ。だが、だがだ。如何せん男の食べ方には目に余るものがあった。パンくずは落とすわ、ミルクは洋服に零すわ、ウインナーは床に落としから奪うわ、散々である。これは、指が折れているなどという理由ではない。何せ、聞き手は五本とも無事だ。ただ、男の食べ方に難があるのだ。 はため息を吐くと、これからみっちり仕込まなければならない日々を思った。 「オレはなんだ?」 食べ終わった後、洗い物を済ますと男は唐突にそういってきた。 硬いソファに腰を下ろし、は足を組む。男は、が指示したとおりベッドに座っている。広さは割とあるが、木造で出来たこのボロアパートの中、二人の距離はそれほどあるわけではない。 「君は、なんと言う名前なの?」 「…あたしは、」 「、さん……ではオレは何だろう」 首をひねり、オレは何だろうと男は繰り返し言っている。 ほどなくして、が静かに口を開けた。「クロでいいんじゃない?」 「くろ…?」 「ええ。あなた、髪も目も真っ黒だし」 は、にっこりと笑うと「さて」と言って立ち上がった。クロと命名された男が問う。「どこに行くの?」 「買い物。住居人が増えたことだしね」 置いていかないでと縋るクロを置いて、が買い物から帰ったのは、それから一時間後だ。 ドアを開けると、クロはの指示通りベッドにいるが膨れっ面をしている。まるで子供のようだ。 ため息を吐き、クロをベッドから引きずり出して服を剥ぐ。されるがままに下着一枚になったクロから包帯を取ると、先ほど出かける前に沸かしたバスルームへと放り込んだ。昨晩は、ただ拭いただけで綺麗にはなっていないだろう。なりの気遣い、だったのだが。 「さん!」 二分もしない間に素っ裸のクロがに飛び込んできた。 「なにやってんのー!」叫んだを気にせず、クロはの胸でえぐえぐと泣いている。大の男がするものではない。 「あついですあついですあついー!」 「はぁー?」 クロを引き剥がし、はバスルームへと直行すると、そこはシャワーから発せられる湯気だらけだった。 腕を巻くって転がっているノズルを掴む。勢い良く発射されている湯に触れると、の手が弾けたように飛び上がった。嫌な予感をしながらもコックの調節部分を確認する――なぜか温度が最大限になっていた。 シャワーを止め、ほどよい温度に戻す。ぐるりと振り向くと、そこには怯える様子で今までを見ていた素っ裸のクロがいた。 小動物か、お前は。突っ込もうとしたが、やめる。思えば、子供同然のクロにシャワーの使い方など知るわけが無い。これは、完璧にが悪い。 「もうこれで大丈夫だから、さっさと入っ――」 「一緒に入ってくれないと嫌だ!」 言葉を遮り、クロはの腰にしがみ付いた。 「体くらい一人で洗えるでしょうが…」 「いーやーだー!」 「あたしも嫌よ!」 が懸命にクロの顔を押しのけるが、さすがに必死な腕力には叶わなく、なかなかクロは離れない。 「へっぷしゅ!」 だが、その時。いつまでも攻防戦をしていたからか、クロがくしゃみをした。そりゃそうだ。何度も言うが彼は、素っ裸だ。 「! ひ、卑怯……くしゃみは卑怯よ…」 結局は、が服を着たまま手伝いをするというこで丸く収まった。 湯を張ったバスタブに浸かっているクロの髪を洗う。男にしては長い髪を念入りに洗いながら、指が折れていればこれは出来ないと改めて気づいた。 クロは、折れている手を湯に浸からぬよう意図的に上げている。の指示だ。 「さん、気持ちいいよ」 「良かったね……」 「うん! 毎日洗って」 まあ、手が治るまでは。はそう思うと、適当に頷いてクロの頭に湯を被せた。 風呂から上がると、また包帯を巻く。痣は昨日よりも薄れてはいるが、まだまだ痛々しい。なぜこうなったのかは聞こうとしたが、やめた。どうしてか、今は未だ聞いてはならない気がしたのだ。 買い物ついでに買ってきた男物の服を着せる。安物だが、あの襤褸布を着せるよりはいいだろう。 それからは新聞紙を敷くと、その上に椅子を置いてクロを座らせた。 「なにをするの?」 無垢に聞いてくるクロに、は穴の開けたゴミ袋を被せる。「髪を切るの。じっとしてて」 元気良く返事をしたクロの髪は、いつから切っていないのかもう少しで肩に付きそうなほど伸びていた。どんな髪形にしようなどという考えは、持っていない。成すがまま、は躊躇なく鋏で切り落とした。 それが後に後悔する事になろうとは、この時のは自分を過大評価しすぎていた。 一度だけ、クロの首を絞めたことがある。仕事を終えて自分に飛び込んでくるクロを逆に押し倒し、首に手をあてた。両手に力を込めながら何も反抗しないクロに問う。「抵抗しないの?」 クロは初め、きょとんとした表情をしていたが、すぐに笑顔を作った。 「うん。新しい遊び? さん」 言いながら、に手を伸ばし、ぺちぺちと頬を軽く叩いたり撫でたりしている。拾ったときよりも肉が付き、男の手となった綺麗でらしい手。その手が、の首にかかることは無かった。 は、眉間に皺をよせ、「バカ」と一言呟くと、クロの胸に頭を落とす。 涙が出そうだった。バカは自分だった。クロはクロだが違う。それは十分、判っていたはずだ。 「どこか痛いの? ねえ、さん」 さん、ともう一度クロが不思議そうに名前を呼ぶ。は返事をするが、顔は上げない。何度か同じやり取りをしていると、頭上に優しい手が降ってくる。 「さん、知ってる? いたいのいたいの飛んでけって言うと痛みは消えるんだって。オレ、言おうか? いたいのいたいの、」 「違う、痛くない。痛くはないの……」 ――その日の夜は、二人で初めて同じベッドで寝た。一つしかないベッドを二人で分け合うことなど、今までになかった。が頑なに拒み、ソファから動かないからだ。 擦り寄ってくるクロの温かな体温を感じながら、瞼を閉じる。欲情は無かった。どうしようもなく、愛しかったのだ。 あれからの生活は、一変した。依頼される闇を半分に減らし、なるべくクロのそばにいるようにした。生活はボロアパートで質素だったし、今まで休むことなく仕事をしていたからか半分に減らしても金には困らなかった。 クロといえば、体は時間と共に癒え、わからないといったような事は無くなっていった。一人で風呂に入れるようになり、料理だってするようになった。一人で買い物は、もちろんこと。 だが、奇妙なことが幾つか増えていった。稀にクロは、教えてもいない知識を持っている。の知っていることや知らないことまで、それは多種多様にあった。 どうして知っているの? と聞けば、なんでだろう? とおどけて返ってくる。本でも読んで吸収したのかと初めは思ったが、心にある引っ掛かりがを不安にさせた。もしかしたら、と思うものがあるのだ。 が仕事から帰ってくると決まってクロが出迎える。どんなに遅くとも、朝になっても、クロは健気にを待っているのだ。先に寝てていいとが言うが、このアパートにクロが来てからというもの、その指示に従ったことは一度もない。その日も、いつもの夜だった。 「おかえり」 「ただいま」 気だるそうに返事をしては上着を脱ぐ。それをクロが取ると、血がべっとりと付いていた。 「怪我、してるの?」 「え? ああ、違うよ。返り血。悪いけど、それ捨てておいて」 はそう言うと、バスルームへと急いだ。脱衣所ですべて脱ぎ捨て、ガラス戸を開ける。湯気がむせ返っているのは、先ほどクロが入っていたからだ。 コックを捻り、結露が占めている鏡に手を添えて、口唇をかみ締める。斜めに線が引かれていった鏡には、肩に傷を負ったが映し出されていた。 今回は、しくじった。けれども遂行はした。この傷をクロに知られてはならない。 近頃のクロは、拾ったときよりもずっと落ち着きを持ち、クロではないクロに戻ってきている。前に思った、もしかしたらが現実になるかもしれない。 沁みる体を我慢し、疑問も何もかも洗い流すと、はバスルームから出た。 「やはり怪我をしていたんだな」 開けた途端、そこにはクロが立っている。驚いて体を隠し、開けたばかりのガラス戸を閉めようとしたが、それが閉められることは無かった。クロの手によって押さえられているのだ。 伸びてきた手が、ズッと傷口をなぞる。痛さに飛び跳ねた体から血が滲み出た。反発的に振り払おうとした手は簡単に捕らえられ、引き寄せられる。 「解せないな。どこのどいつだ? お前の身体に傷をつけたのは」 の瞳が疑惑と驚きで満ちる。「クロ、あなた……」 「――、言え」 冷血に命令を下す姿は、もはや無垢なクロは存在していない。 「この身体に傷を付けていいのは、オレだけだ」 真新しい傷の隣には、凹んだ醜い抉り傷がある。数年前、とある悲劇によって出来たものだ。それを撫でるように男の指が這うと、の脳内は終わりを告げていた。あの幸せだと思っていた日々が崩れてゆく。 表面上だけでも何も知らないまま、忘れたままの方が二人、幸せだった。 「いつ、思い出したの」 「少し前からだ。ああ、言ってなかったが、オレは今、念が使えないからな。無関係の野郎共にあっさりやられて記憶をぶっ飛ばしたのは予想外だった」 「念が…?」 「色々あった。それは後で話すよ」 の勘は正しかったのかもしれない。疑惑を持ったあの辺りから、クロは――クロロ=ルシルフルに戻っていただろう。 「本題に戻るが、お前も薄々勘付いていただろう?」 「………」 「幸せのままごとは、なかなか有意義な時間だったよ」 は、黙秘を続ける。 「そして、実感した。オレたちは、やはり平穏な幸せなどに満足しない」 窪んだ傷に顔を寄せ、妖艶に舐める。何年も前のもので痛さはないが、疼きはあった。 が身をよじる。 「懐かしいな。こうしてオレは、お前の肉を食らったな」 口を開けたクロロが、がちんと歯を合わせ当時を再現する。そして、一つ笑いを零すと、もう一度舌を這わせ始めた。 あの日、は、好きだといった。けれども、クロロはくだらないと罵った。ならば去るといったに、手放したくないと矛盾の言葉を吐いて口論となり、悲劇の結果となる。クロロは、どうしても言うことの聞かないの肩を噛み千切ったのだ。自分の元を去ると願ったの気持ちと肉を抉ったのだ。 口に含んだ柔らかな肉を、ぶっと吐き捨て呪うように告げた。 『その傷は一生残るだろう。それを見るたびにオレを思い出せ』 愛の形は、人それぞれ異なるが、この時のにとってクロロの行動は愛とはなんら感じなかった。それは、そうだ。気持ちを伝えれば拒否し、幻影旅団に入ることは許さず、そして放さないという傲慢さ。無理解である凶器の愛。 これは数年経った今でも、やはりあやふやだ。 「これを見るたびにオレを思い出したか? これを見るたびにオレを忘れなかったか? これを見るたびに――」「情熱を押し殺した」 「嘘だな。情熱を呼び戻した、だろう? オレの髪を全く同じ髪形にしたのが良い証拠だ。オレを拾ったこともそうだ、嫌なら見捨てれば良かったんだ。お前には、その選択肢があった。けれどもオレを拾った。決定的だな」 耳元で囁いたクロロが、の下腹部を目掛け、手を伸ばす。溢れ出した欲情を抑えきれず、もまたクロロの首に手を回す。 「なんて、なんて人なの……」 この刹那で全てのはじまりなど、一体誰が予想した。 「どうとでも言えばいい。これがオレのやり方だ」 どうして、こんな愛し方しか出来ないのだろう。けれども、傷つけあうことでしか愛を確かめ合えないなど、なんと奥深い愛情か。 人は、誰だって小さな傷や大きな傷を相手に負わせる。そして大切ならば、再生しようと身を寄せ合い、想いを深く積み上げてゆく。時に瘡蓋を剥がしても、そこからまた血が滲み再び再生を目掛け、手を取り合って行くことも出来る。 痕が残れば、そこに触れ当時の罪深き情熱を感じ、そして懺悔し、より一層相手を想えばいい。それが罰であり、罪でもある悦びだ。決して不毛ではないこの戦いを幾度も繰り返し、幾つもの傷をふたりは作り上げてきた。 心も身体も傷つけて、抉ることでしか出来ない彼の癒し方など、最上級の愛し方。 Platinum mania |
(20160612/再録)