Attention
1)原作にはない流星街や長老達、また旅団結成への描写があります
2)クロロが人間臭くてフレンドリー(主に口調)
3)クロロがモブ女となんかする描写もあります

- MISERY -
その路は、唐突に割れ、岐路となった。
 二重でも一本だったはずの路が、ぱっくりと引き裂かれるその様を見てみぬ振りをするのは限度と言うものがある。
 相手からの、さよならも無しに違う路を歩んだ。それが当前だった。所詮、他人なのだ。全てを共に、というのは、どこかの夢見ている純愛映画ではないだろうか。
 向かう路が一本道だったとしても、数えれば紛れもなく二本。その意味を判っていたはずなのに裏切りが生まれた。すくすくと育ったそれはいつしか大きな闇となり、溝となる。
 時間と共に止まらない足を引きずり、じわじわと距離が長くなっていく度には嫉妬と諦めを思った。



 本日は未だ聞いていない一声で、名前を呼ばれたは閉じていた瞼を薄っすらと開けた。寝そべっている体は起こすことなく、ゆっくりと頭を横に向けた先には塵を踏みつける音が鳴っている。
 その奥から表れた黒影は、本を片手に塵山を上り切ると、へと歩み寄り、顔を覗いた。影が出来る。
「狸寝入りか」
「いや、普通に寝てた」
「返事しろよ。ガス中毒で死んでるかと思った」
「まさか」
 抑揚もなく返答をしたは、黒影――クロロの顔を鷲掴みして退けさせると、起き上がった。
 両手を広げ伸びをし、ぼりぼりと後頭部を掻いていると隣に座る気配があった。真横を向けば、クロロが何食わぬ顔で本を開いている。相も変わらず秀麗な形貌がそこにある。
 ここで湧き上がった感情は3つ。用事があって呼ばれた予想が外れ、拍子抜け。そして昼寝を妨げられたことに腹立った。最後の3つ目は違和感だ。
 は、クロロから本を抜き取ると、それを躊躇無く隣の塵山に向けて放り投げた。
「クロロ」
 わざとだ。
「何かあったんでしょ」
 確信があるように、は語尾を上げず、疑問符を付けずにそう言った。
 たった今放った言葉の語尾に、は"聞くつもりはなかった"と付け足したかったが、それを取り除く。余計なものは省く。
 クロロが読書をするにあたり、わざわざを起こすのは特別な何かがなければ起きない。何よりもクロロは先ほど長老達に呼ばれたはずで、延々と続く会議に同席すれば夜まで帰って来ないだろうとは踏んでいたのだ。それがとうだ。一時間もしない間にクロロはの横を埋めている。
「……別に大したことないよ」
「嘘つき」
「些細な出来事なんだ」
「それが嘘なのよ」
 同じような攻防を繰り広げ、それがどのくらい続いたか。絶え間なく言う続ける両者は、互いに譲る気がない。
 言い合いが一段落し、少々気まずい雰囲気が流れると、敗北の白旗を上げたのは、めずらしくクロロだった。
「敵わないな…なんで分かったんだい?」
 その一言で勝利の味を噛み締めたが、にっこりと笑うとクロロは一つ笑いを零す。だが、それ以降黙りこくった。
 クロロの"何か"の内容に、確信は持っていない。だが、様子がおかしいことは確信済みだ。
「クロロが本を読むときって、いつも独りになる場所を選ぶじゃない。でも、本を持ってあたしのところに来たってことは、そういうこと」
 得意気に言うに、「ああ、そういえば」と小さく口にしてクロロは顔を左手で覆う。
 癖、とまでいかないがクロロが何かあるとき大抵の隣を選ぶのは当然となっていた。は気づかない振りをしていたのだから、初めて指摘されたクロロ自身、走馬灯のように考えれば納得のいく一言である。名付けるなら幼馴染の特権だ。
 確かに、何か迷いやダークなことが起きると決まって隣にはがいた。何度もあるわけではない。けれども、確かな真実だった。

 物心が付く頃には、塵山で何かを漁っていた。膨大の広さを誇る流星街は、長老達が統括し、国家レベルにまで上り詰めた。
 大人たちが言う教訓は、世界中の廃棄が無条件で受け入られるここでは、誰もがすとんと腹の底に下りた。流星街の者以外は、首を傾げることでも粗悪な環境は当然となり、普通と称する事柄を鼻で笑う。
 理解は求めない。我々には、我々がいる。
 クロロとも生まれ落ちた時からここにいる。出会いは必然、走り回れるようになると、隣には互いがいた。人は、これを幼馴染というのだろう。
 しかし、彼らの方にも常に数人の仲間がいた。途中でいなくなる者もいれば、流星街に置き去りにされた子供まで、カリスマ性のあるクロロに自然と人が集まってきていた。
 
 念を取得してから、生きることに随分と楽になった。例えば、こんな時。
 は、先ほど放り投げた本を拾うため、隣の塵山に向けて飛んだ。半分ほど埋まっている本を無造作に抜き取り、またクロロの隣に戻る。悪気もなく本を渡せば、クロロは小さく笑った。
「…なによ」
「いや…拾うくらいなら、なんで投げたんだよ、て思って」
「だって手元に本があるとクロロとは、まともな会話は期待できないもの」
 指摘されて納得したクロロは、本を受け取ると表紙を捲った。どうやら、やはり読む気らしい。
 は溜息を吐くと再度、昼寝をするか、ここを立ち去るか迷った。だが、それは刹那の迷走で後者はないと判断した。クロロは、何かあってここに来たのだ。
 隣にいるクロロを盗み見る。背を丸めて食い入るように見据える先は、びっしりとページを埋めている活字だ。本を与えてしまった失態に小さく舌打ちしながら、この愛する活字からどう引き離そうかは思案する。
「長老達に何か言われてきたでしょ」
 ぴくりと僅かにクロロの肩が揺れる。
「ろくな議論しか積み上げない長老達の話し相手にしては早いお帰りじゃない」
 それは微々たなものだったがが見過ごすはずもなく、だが突っ込みもせずにそのまま淡々と言い続けた。
「御託を並べたところで、結果は変わらないのにね」
「……」
「あたしは時と場合によっては結果論で片づけてしまっても良いと思ってる。中身は後の教訓として用いればいいことだし――あ、この話をするとクロロと討論になるからもう言わないでおくね」
 特に答えを求めているわけではなかった。にとって、上の言葉は独り言に近い。
 人間、言いたくない事は、一つくらい持っている。クロロは、いつだって嘘は吐かないが確信は言わない。は長年の付き合いで、それに気づいている。
 同じ環境のせいか、本来の性質か、似ているのだ。家族構成や家庭内事情が同じ、というわけではないが、自身がクロロと似ている。全く同じ人間など、特に他人ではありはしないが根本的な部分が瓜二つだった。
「……何を言われてきたか分からないけど、クロロの判断は間違いだとは思わないよ」
 この結論は、幾重の年月を経た台詞だ。そして、自分に似ているというものから出来た予想である。
 10代の割に冷静な判断と年齢には似つかわしくない思考をクロロは持っていた。どこからどこまでがカリスマと言えるか定かではないが、誰もが納得せざる終えない状況に追い込むのがクロロだ。そして周囲の誰よりも責任感が強い。
 恐らく長老達はクロロに何かを押し付けた。否、押し付けたのではなくクロロをも納得する提案をしたのだ。そして、それを受け入れたとしても、その選択は重い鉛のようなものだろう。こうしての隣にいることが証拠だ。所詮、彼も人間なのだ。
「ねぇ、クロロ……あなたは昔から一度決めたことを、一度たりともねじ曲げたことはなかったね」
 いつの間にかクロロは本を閉じ、を見ていた。はその視線に気がつき、目を合わせると口角を上げて口許に笑みを作る。首を傾げ、まるで謡うように紡ぐ。
「いつもみたいに詳しく聞かないよ。けど、クロロのことを想ってくれる奴がいることだけは覚えておいて」

 この言葉を境に一週間も経たない日からクロロの顔は決意に満ち溢れ、生き生きとしているように見えた。いつしか強奪してきた、どの宝石よりも負けないほど輝いている。
 は完璧にクロロが眩しくなっていることに気づいた。それは、似ている自分が姿を変えたのだから当たり前だろう。
 クロロは、歩き出したのだ。

 クロロ=ルシルフルは一個人である"クロロ"を脱ぎ捨てる術を持った。
 後に髪型をオールバックにするようになった。
 額には十字のような決意の入れ墨が彫られた。
(クロロがこの出来事の真実を言ったのは、一ヶ月後も経った寒い日だった)
 幻影旅団――通称クモと呼ばれる集団の団長は、クロロ=ルシルフル。幻影旅団と共に団長としてのクロロが生まれた。
 流星街の片隅で、これから数多の凶悪事件を起こす盗賊団が静かに産声を上げたのだった。その中に、の名前はなかった。
 ゜

  ゜.
.
 .
「クロロ、いい顔してる」
 雲一つない宵闇の空は、月光がより拍車をかけて目映く塵山に降り注いでいた。ばら撒かれた星達は、月を主役に皓々と放ってるが一つ一つが点となり、線を繋げば星座となる。
 初め、星座に興味を持ったのはどちらだったろう。は幼き日を巻き戻した。
「なに言ってんだよ。昔からいい顔だろ」
「はいはい」
 冗談を言い合いながら、笑い合う。記憶を巻き戻す途中に話しかけられたため、はあっさりとそれを手放した。
 深夜、ふたりは塵山のてっ辺で天を仰いでいる。呼び出したのはクロロだが、何の意図なのかは知り得ない。初めは他愛ない話をし、その後、こうして沈黙が舞い降りてしまった。
 隣にいるクロロは、懐中に両手を突っ込み夜空を見上げている。その先にあるのは、の脳内で在った過去か、これからの未来か。
 一昔前までは、無邪気に微笑んでいた顔は歳を追うごとに少なくなった。長老達に呼ばれた日から2週間後の今は更に、だった。
「使命と指名、決意と奮励、快楽で貪欲――そして覚悟」
「……」
「ね、合ってる?」
「…」
 クロロは否定も肯定もしなかった。ただ視点をゆっくりとへ移し、双眸を見開いている。突然放たれた言葉に驚いているようだった。
 なぜ、がそう思ったのか。クロロは答えを言うよりも、それが気になったようだ。「なんで?」
 は笑いながら言う。
「ただ、そう感じただけ」
「本当にそれだけ?」
「もちろん」
 返事をし、ようやっとは射抜かれていた視線に自分のものをぶつけた。
 冷気を孕んだ風が、ふたりに襲いかかるが動じた様子は一寸もない。
「……クロロ、手握ってもいい?」
「なんだ、突然」
「だめ?」
「いいよ」
 唐突な願いに不思議と思いながらもクロロは了解すると、片方の手を差し出した。は、その手に自分のものを重ねる。双手は握手をしているような形だ。
 ぎゅう、と白魚のような美しい手から圧がかかる。抑えられないもどかしい感情を隠すために、は最小限の力を手に込めたのだ。

 ――この行為の意味をクロロは理解するだろうか。

 別れ道だった。クロロは枷を外し、繋いでいた手を振り払って眩しい光に向かい走り出している。それを後押しした一部分は自身だ。
 もっと、ゆっくりと、まだ繋いでいてくれるとばかり思っていたのは、ただの甘えに過ぎない。
 依存、とまではいかないが、必要な人だった。共に歩き、軌跡を作る人だった。
 失う寸前に判るのは皮肉な事で、の性格上「行かないで」など言うことは出来ない。自分の言動でクロロの未来を潰すことは、あまりにも身勝手だ。どちらにしろ言ったところで、クロロが引かない事も了知している。クロロが決めた大路は、クロロだけのものだ。
 嫉妬と観念、先に歩き出したことで生まれた醜いものが渦巻いている。
「……足跡だけは残してよね」
 辛うじて言えた言葉は、とても惨めな助けだった。
 意味が判らない。そう言いたそうなクロロの顔を、は細めた視界の中で見た。きらきらと輝いているのは夜空のせいだけではないことは百も承知である。
 ネオンのような、飲み込まれるほど光の洪水を背に、クロロはだけを見ている。からすれば、白き闇へとクロロは埋もれてゆく。その様子に破顔したは、心の中でそっと手を振った。バイバイ、いってらっしゃい。
 そしてクロロの手を、クロロ自身を、自分から乖離する。
 星空の下、世界でただ一人の人とこうしているのが、どこか奇跡的に思えるのは双方。
 見つめ合ってたかが数分――永い永い永遠の刹那だ。この刹那さえ胸にあれば、例え違う道だとしても歩んでいけると、だけは思っていた。
 の決別は、確かにこの時だった。


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(20161005)

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